11月1日(金曜日)から3日(日曜日)まで、宮崎県で開催された「第40回地域づくり団体全国研修交流会宮崎大会」に、深川輝人工房から私、ともぴーが参加しました。そのうち、2日から3日まで開催された第4分科会(児湯[こゆ]ブロック)で「サッカー+地域おこし協力隊=地域づくり」をテーマに、新富町・都農町のサッカーを中心とした地域づくりを視察しましたので、両町の取組について数回に分けて報告します。
今大会は宮崎県を8ブロックに分けて8つの分科会がありました。参加者が選ぶ参考として、主催者の方で分科会紹介の動画を公開しています。
第4分科会 児湯ブロックの紹介の動画(第40回地域づくり団体全国研修交流会宮崎大会YouTubeチャンネルへリンク)
さらに、今大会は各分科会に宮崎大学地域資源創生学部根岸ゼミの学生が関わって、分科会の紹介動画の制作や全体会での報告を行いました。若い学生の参画は大会に活気を与えていました。
宮崎大学の学生が制作した第4分科会紹介の動画(パート2)(第40回地域づくり団体全国研修交流会宮崎大会YouTubeチャンネルへリンク)
11月2日は 宮崎県新富町を視察しました。
新富町は宮崎市の北隣に位置し、人口は約16000人。農業の町でピーマン、そば(県内1位)などのほか、国内では珍しいライチの栽培が行われており、町長の話では「新富生ライチ」として1粒1000円でブランド化を図っているそうです。
最初に新富町フットボールセンターで、小嶋町長から「ウェルビーイング」を目指すまちづくりの施策について講話を聞きました(写真)。町長就任後、サッカーを中心とする地域づくりを目指して、まず、サッカースタジアムづくりに取り組みました。同町には航空自衛隊新田原基地があり、その騒音問題で工場が撤退した空き地を活用。プロを目指すサッカーチームを誘致し、スタジアムを建設してもらい、町に寄付を受けました。現在のJ3テゲバジャーロ宮崎のホームスタジアム「いちご宮崎新富サッカー場」となりました。スタジアムを整備してくれるならばと、町は防衛省の補助金を使い、人工芝2面のピッチをもつフットボールセンターを整備。県サッカー協会が指定管理しており、宮崎県のサッカーの拠点施設になっています。
▲新富町フットボールセンター
▲隣接する「いちご宮崎新富サッカー場」はJ3リーグのテゲバジャーロ宮崎、なでしこリーグ1部のヴィアマテラス宮崎のホームスタジアムになっている。この日は全国高校サッカー選手権の宮崎県大会の決勝戦が行われ、多くの人で賑わっていました。
これらの取組に対して、当初、町民の反応は「町長はサッカーにばかり金を使う」「宮崎は野球のキャンプがあるので野球の方が・・・」と冷ややかなものがあったそうです。
Jリーグチームの本拠地となったことで、毎週のようにテゲバジャーロ宮崎のニュースが地元のテレビで放送されることで認知度向上や観光客の増加が効果として現れ、観客の輸送を見込んでJR日向新富駅が3便増便されたほか、新富スマートインターの設置事業化や国道の4車線化が決まったとのことでした。
そして、宮崎県は女性の県外流出率が1位であり、女子サッカー後進県であったことから、流出を抑える施策として、4年前にヴィアマテラス宮崎の運営法人を設立。30人の選手のほとんどを地域おこし協力隊で雇用、運営経費を企業版ふるさと納税で賄っているそうです。チームは2020年宮崎県リーグからスタートし、九州リーグ2部・1部を経て、昨年なでしこリーグ2部へ昇格し、今年は1部に昇格して戦い、優勝したそうです。全てのリーグで優勝しているのには驚きました。その上はプロのWEリーグとなり、現状、アマチュアのチームでは最上位のリーグになるそうです。
町長のまちづくりへの仕掛けとしてサッカーに次いで、2点目は「入りを計りて、出を制す」ということで、歳入増と借入金の減に取り組んでいるとのこと。ふるさと納税を増やす取り組みを行い、2018年度約9億円から2023年度約17億円に増やしています。同町のふるさと納税の特徴は、いわゆる民間の代行業者を使わずに、町が作った外郭の財団(一般社団法人こゆ財団)に業務を委託していることで、収益が出た場合は町の人材育成に再投資することを条件にしているそうです。企業版ふるさと納税は2022年度で29社、約3億2千万円で県内トップ、全国の町村でも3位の規模で、使途はヴィアマテラス宮崎の運営、スタジアムの照明整備のほか、公共交通ではデマンドタクシーの運行などに充てられているとのこと(写真は富田浜[とんだはま]公園のデマンドタクシー停留所)。
また、JAと共同で農業に関する法人(一般社団法人ニューアグリベース)を設立しているそうです。農業の実証実験用の施設を作り、企業に活用してもらうことを狙っている。その施設はサッカースタジアムに隣接した場所に整備することにしており、まちづくりの拠点形成を進めているとのこと。
さらに町長からは、スタジアムのネーミングライツに関する取り組みについても話がありました。ユニリーバのネーミングライツ導入では、金銭的には無償にして、町で何か取組みをお願いしたそうです。同社製品との協業や職員との交流、小学生への講座などの取組が行われ、新たな価値の創出を図ったそうです。
これらの取組により、工場が移転するほどの使えないエリアに拠点形成を図り、10万人を見込む集客と物流、交通のハブ、農業実験、町民の憩いの場に生まれ変わる仕掛けを行っているとのこと。例えば、ヴィアマテラス宮崎の年間観客動員は1試合3500人、年間10試合でおよそ2万人になるとのこと。一度に何万人も来てパンクするのではなく、継続して3500人の観客が来る方が、この町の規模で経済効果が見込めるという。これから5年後までに、さらにいろいろな施設を作っていくので、もう一度見に来てほしいとの話でした。
あと、私が印象に残った話は、こゆ財団に人材育成を担ってもらっていることについて、何でも屋ではなく専門家集団を作りたいとの思いがあるとのこと。町長は「地域づくりは1つの団体が何でも屋でイベントから人材育成など、いくつもの役割を担っているが効果が限定的になる。多様な団体をいろいろ作り、予想外のつながりや連携を作ることで、新しい出会いが生まれる」という。その思いは、ヴィアマテラス宮崎、フットボールセンター、農業実験場といった生まれ続ける事柄をひとつひとつ掛け合わせデザインしていくという考えに通じるものがありました。
参加者との質疑応答では、町長の思いを役場職員とどう共有するかについての質問では、仕組みは町長自らが考え、責任が伴うので決断は1人でしている。ここまで具現化できているのは職員のおかげだと話していました。
また、地域おこし協力隊の制度は任期終了後の定住を目指しているが、町長は全国的に移住に重きをおきすぎていると感じているという。例えば、就農する移住者に最初に給付金を渡すとすると、農業に向いていなくて就農をあきらめると、町を離れてしまうが、離れるのではなく、別な選択肢がある町にしたいと考えているとのこと。サッカーを辞めたらこういう道があることを示すことが大事。新富町では任期終了後8割の人がその後も残っている。町を離れた人が町の応援に来てくれる、サッカーの応援に来る。離れた人が寄り付かない移住でなく、ハードルの低い、ゆるやかなつながりを作りたいと話していました。
その後、海辺にある富田浜(とんだはま)公園でヴィアマテラス宮崎の練習を視察しました。分科会運営の代表で、電気工事の仕事の傍ら試合のスタジアムDJをしている川上さんによれば、昨年まではホームゲームをこの公園で行っていたそうです。観客席は仮設スタンドを設けていたとのこと。
▲町内の富田浜公園でヴィアマテラス宮崎の練習を見学。