「第39回地域づくり団体全国研修交流会島根大会」の第6分科会をコーディネートした、島根県邑南町の「NPO法人江の川鐡道」の活動について紹介します。
「NPO法人江の川鐡道」は2018年3月に廃止された旧JR三江線の宇都井駅、口羽駅で廃線跡にトロッコを走らせるなど、廃線跡の活用を図っている団体です。
※宇都井駅でトロッコに乗車した時の様子は前の記事をご覧ください。
旧JR三江線は島根県江津市の江津駅から広島県三次市の三次駅までを結んでいた路線で、2018年3月31日で運行を終了し廃止されました。当時の沿線では、存続を目指して活動していたグループが9つほどあり(写真は今も口羽駅前に掲出されている三江線応援横断幕)、存続を願うも、沿線人口が少なく、あきらめ感が漂っていたようで、全国の鉄道網から切り離されることへの喪失感もあったそうです。その中での廃線決定で、それらのグループは目標を失いました。廃線が決定された夜に仲間たちが集まった中で「鉄道が無くなっても地域が無くなるわけではない」と発想を転換しました。いわゆる「廃線バブル」が訪れ、全国から鉄道ファンが三江線沿線に集まるようになりました。最終運行日には宇都井駅におよそ8千人が訪れたそうです。地元では鉄道グッズを販売していたが、次第に手伝ってくれる人が現れるようになったとのこと。廃線跡を活用するにも、地元の人は地域を運営するだけで精一杯で、新たな活動に取り組む余裕がない状況でした。その中で、沿線に集まる鉄道ファンに注目したそうです。活動を手伝ってもらうことで、流行りの言葉で言えば「関係人口」になる可能性を秘めていることに気づいたとのことでした。
NPO法人江の川鐡道は、沿線住民や三江線のファンら18人の手により、廃線後間もなく2018年5月に設立されました。現在は正会員28人、協力会員68人、賛助会員12団体・企業で構成されています。同法人のビジョンは「三江線沿線地域が持つ歴史や資源を磨き、活かす取組を自らが楽しみながら実践することを通じて、地域に関わる人の輪を拡大する」を掲げています。
設立後、2018年7月から11月にかけて、邑南町内の口羽、宇都井両駅でトロッコ運行など廃線跡地の活用についての社会実験を開始しました。「廃線跡地を活かした取り組みで賑わいを創出できるか」が社会実験のテーマでした。鉄道資産の活用にあたっては、多くのマンパワーと知恵が必要であり、その中で「鉄道ファン」を関係人口として迎え入れています。また、総務省の関係人口創出に関するモデル事業に採択され、必要な財源を確保したそうです。
これらの取組に呼応して、2019年7月に邑南町が三江線の廃線跡(宇都井、口羽駅周辺)をJR西日本からの無償譲渡で取得、9月よりトロッコの本格運行(冬を除く)が始まりました。その後、2021年4月に両駅は鉄道公園として整備され、江の川鐡道が指定管理者となっています(写真は口羽駅の駅舎とホーム)。
トロッコ(写真)については、最初(2018年)は3人乗りで、2020年に2代目木製「チモハ」号6人乗りが導入されました。その後は「ガバメントクラウドファンディング」などにより800万円超の資金を調達、現在は定員10人のトロッコが2編成運行されているとのこと。1回のトロッコ運行には運転手、車掌、受付などで4人は必要で、これらの人手は、地元以外の「関係人口」の方が多くを担っているそうです。例えば、この日、宇都井駅で説明されていた女性の方は広島市から通っているとのことでした。
その他の活動としては、「天空の駅」と呼ばれる宇都井駅の高さを活かして、高架から長い半紙を吊るした書き初め大会、116段の階段を使った流しそうめん、駅のライトアップなどが行われています。このうち、ライトアップは毎年11月に駅周辺で「INAKAイルミ」という集落全体をLEDライトでライトアップするイベントが行われており、今年も11月24・25日に開催されました。このイベントは2010年の開始時は町主催でしたが、後に補助事業に切り替わり、2018年三江線廃線の時に補助が打ち切られ、現在は地域の行事となっています。集落に広がる田んぼに、稲穂のようにLEDライトを大量に配置して、幻想的な風景を作り出しているのが特徴です。
また、鉄道資産の維持管理では、枕木交換体験会といった作業自体をイベント化して、関係人口の方が参加しやすいものとしており、過去の体験会には関西や九州からも参加があったそうです。
活動費の財源については、町からの鉄道公園の指定管理は無償で受けており、トロッコの乗車料金、宇都井駅見学の協力金、グッズ販売、寄付、会費などが主な財源となっているようです(写真は口羽駅にて200円で販売されている「訪問証明書」)。
今後の課題としては、1点目は口羽駅と宇都井駅の間をトロッコで結ぶこと。2点目は「関係人口」の方に、鉄道以外に地域のことにも関心を持ってもらうことで、地域への関わりを増やすアプローチ、「関わりしろ」の設定を工夫していきたいとのことでした。住民、移住者、関係人口が元気に行き交う姿を目指していくことが、地域再生につながると考えているそうです。
また、活動から見えてきた今後の進路として、活動への「共感」が力であり、お金は後からついてくること、関係人口と共に挑戦を続けること、人口減少時代の地域づくりの先行事例にしたいとのことでした。江の川と三江線を舞台に、人々が関わりながら楽しむ「新たな観光」事業の創出に向け、まだまだ挑戦を続けていくと話していました。
旧三江線は邑南町では旧羽須美村をかすめるように通っていた(記事上部の案内板写真を参照)ので、羽須美の人々には大きな存在であっても、東西50キロに及ぶ広い町域全体では、決して大きな存在ではなかったかも知れません。しかし「江の川鐡道」の活動がきっかけで、町が鉄道資産の活用で大きな決断をしたと感じました。私の住む深川市では、およそ30年前に深名線の廃線を経験し、これから3年後に留萌本線・石狩沼田ー深川間の廃線を控えていますが、今回視察した「江の川鐡道」の活動は、鉄道資産の活用にあたり、関係人口として「鉄道ファン」に着目する視点と地域への関わりの作り方において、示唆に富む事例だったと感じました。今後の参考にしたいと思います。
<参考サイト>詳しく知りたい方は、次のサイトを参考にしてください。
・NPO法人江の川鐡道
・「江の川鐵道のその後〜関係人口の拡大とかかわりしろの深化〜」(2022年2月15日 総務省 関係人口連続セミナー2021 NPO法人江の川鐵道事務局 森田一平氏による発表の資料、PDFファイル)→内容が今回の事例説明の資料の一部になっています
・「“観光”やめます“関係”はじめます〜地域活動の新たな担い手「関係人口」〜(島根県邑南町)」全国市町村国際文化研修所機関誌『国際文化研修』第112号掲載記事(PDFファイル、2021年夏)
2023年12月06日
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