2024年11月28日

「サッカー+地域おこし協力隊=地域づくり」(その3) 宮崎県新富町の地域づくり(3)

 「第40回地域づくり団体全国研修交流会宮崎大会」第4分科会報告の続きです。
秋本代表の事例発表の写真 ヴィアマテラス宮崎の選手からの説明に続いて、チーム代表の秋本さんから運営について説明がありました(写真)。秋本さんは前職は男子サッカーチームの運営に関わっていたそうです。選手34人のうち8割の選手が地域おこし協力隊員となっている。チームは発足から4年目で、今年はアマチュア最上位のなでしこリーグ1部で優勝、平均来場者数1836人、最高来場者数3479人を記録し、「100年先も続く地域とクラブ」を目指して日々活動しているとのこと。

 なぜ、宮崎県で女子サッカーに取り組むことになったのか。宮崎県の女子サッカーは都道府県では45番目くらいに低迷し、全国大会や国体の本戦出場歴がまだ無く、強豪チームもいなかったとのこと。日本が2011年に女子ワールドカップで優勝し、女子サッカーが脚光を浴びた時期もあったが、リーグのプロ化が最近になるなど、その待遇は男子に比べると過酷だったそうです。そのために雇用安定、自己肯定感の向上を目指し、新富町から女性アスリートへの支援として受け、ヴィアマテラス宮崎が発足しました。

 このチームでやりたいことは、アスリートと社会人両方のキャリア形成により自分らしく生きる「戦う女性の支援」と、活気あるまちづくり、笑顔あふれるまちを目指す「地方創生」の2つの軸で展開されています。

 まずは選手集めのために「宮崎でこんなチャンスがあります」と全国に情報発信したが、コロナ禍で苦労したという。新潟、茨城、長野などにスカウトへ赴くも、仕組みには自信があったが、選手にとって宮崎に行くのはハードルが高く、底辺からのスタートだった。それにも関わらず、キャリアのある多くの選手が加入してくれたとのこと。
なでしこリーグ1部優勝への感謝を伝えるポスターの写真 次に宮崎の女子サッカーの現状から脱却するためにチームが勝ち続けることを目指した。2020年の宮崎県リーグから九州リーグ、今年のなでしこリーグ1部まで毎年優勝で昇格した(写真は優勝への感謝を伝えるポスター)。国体や皇后杯も予選を突破して県勢初の出場を果たしている。
 そして、選手達を地域に受け入れてもらうことを目指した。地域おこし協力隊の制度を活用しているため、隊員は役場の職員として任用される。地域の中に入っていかないと町民から納得されない。地域に何ができるかを考え、「宮崎県・新富町をPRし訪れたい街に」「地域の方に会い、元気を届ける」「地域のお困りごとを率先して解決する」「ワクワクする週末をお届けする」の4つの軸で「地域の花となる」を目指して活動しているとのこと。

 地域おこし協力隊としての活動について、選手からも発表があったが、秋本さんからも改めて発表があった。広報班に関しては、「いっちゃが新聞」は手書きなら見てくれるかもとの考え。内容的にはまだまだブラッシュアップの余地がある。個々人の得意分野を生かして役割分担している。「しんとみチャンネル」という新富町の公式YouTubeチャンネルの更新を選手が担っています。町を知ってもらおうとネタ探しから励んでいるとのこと。

※「しんとみチャンネル」の中で、選手による地域おこし協力隊活動の紹介動画がありました。興味のある方はご覧ください。
地域おこし協力隊✖×ヴィアマテラス宮崎に密着!!→YouTube、農業の活動について(2023年6月29日付)
地域おこし協力隊×ヴィアマテラス宮崎に密着!!Part2→施設管理、広報の活動について(2023年10月25日付)

 営業班は広報班の作った紙媒体を手に「とにかく沢山の方々に会いに行く」スタンスで活動し「単純接触効果」を狙っている。2000部のチラシを余らせないようにしているとのこと。町内企業のスポンサーは66社を数え、ほとんどを選手が獲得しているという。イベントへの誘いも可能な限り受けているそうです。
 試合でのイベントは「関わってくれる人を増やす」スタンスで、多くの人を連れてくる人に来てもらうような視点で企画している。「特産品である農業を元気にしよう」と農業班が農家のお手伝いをするほか、ホームゲームで必ず地元の野菜を販売しているとのこと。

 ホームゲームでは「来た人も、作る人も、関わった人もワクワクするホームゲームを」目指して、毎回主役を作ること、可能な限り身近な主役で(地元の農家、卒業生などに焦点を当てる)にこだわり、主役には登場機会(入場時の選手をエスコート)、行けばもらえるプレゼントを配布している。関わる人を多くして、来た人には楽しんでもらうスタンスで、ダンス、空手、伝統芸能の披露などを試合で行っている。おもてなしの心と宮崎らしさでは「おもてなしスポンサー」としてスポンサーに焦点を当てるほか、アウェイチームのロッカールームにもプレゼントを置いているとのこと。子連れの観客向けにベビーカーが持ち込めるエリアを確保。雨の日に入場待ちしている人に、選手のメッセージを書いたカッパを配布している。スタジアムグルメでは飲食店の出店は15店舗くらいで、なでしこリーグでは多い方。宮崎ならではのお店で、分野が被らないようにしているという。選手入場曲は宮崎の民謡を使っており、観客にとって最初は違和感が拭えなかったが、次第に慣れていったという。

 試合前には集客会議を開き、サポーターの入場見込みなどのほか、チラシ配布の手ごたえなどから、選手が呼び込む観客の人数を決めているそうです。アウェイでの試合の時には、チームのスタッフが、チームと宮崎のことを書いたパンフレットを相手チームのサポーターに配布して呼び込みをしています。

 メディアへの露出については、宮崎県のNHK・民放テレビが3局と他県に比べ少ないので、1局当たりの占有度合いが比較的高いようで、露出すると反響があるという(今シーズンでテレビ約60回)。今年はNHKの地上波生中継も行われたとのこと。宮崎市のコミュニティFM「サンシャインFM」で「ヴィアマテラスのよかラジオ」を毎週火曜日午後8時から9時まで放送しているとのこと。FMプラプラ(PC・スマホアプリ)で聴くことができますので、興味ある方は聴いてみてください。

 このように宮崎・新富にあえて固執することで、チームをより身近に感じてもらい、地域のクラブ、私たちのクラブとして価値をもつように取り組んでいるとのこと。

 地域おこし協力隊の活動を通じて、選手達も成長しており、例えばチラシ作りのレベルが上ったり、営業活動でスポンサー獲得件数が増えてきているそうです。営業リーダーの選手は、昨年まで年間20件程度だったのが、今年は町内66件中45件のスポンサーを自ら獲得しているという。似顔絵が得意な選手は、県内の男子サッカーやバスケットボールチームの選手の似顔絵も依頼されるようになったという。

 ヴィアマテラス宮崎はアマチュアリーグのチームであるが、アカデミー(育成)組織も体系立てて整備されている。U-12、15、18のユースチームを持つほか、県内の高校、大学のチームも組織に組み込んでいる。
 障がい者サッカーの指導や高齢者施設の入居者も施設で応援してもらうなど、誰でもサッカーが楽しめるような取り組みも行っています。

 クラブが街にあることで、たくさんの可能性が出て、地域に必要とされることで、選手が自己肯定感を得ることができる。例えば、選手の顔をして仕事ができて、応援してくれる人の声がダイレクトに届くのは大きい。試合後に選手総出で観客のお見送りをしていることは、両者に非常に良い距離感を作り出しているという。クラブで大きなことが出来るとは思っていないし、選手がまちづくりに繋がっていると認識しているかは分からないが、サッカーで住民と選手、住民同士など、いろいろなつながりをつくるきっかけになっていると感じるとのこと。つながっている安心感は心地よいもので、つながりのある人同士が町にいるのは、何かあった時の底力になるのではないか。

 最後に秋本さんから、これからの課題として、より具体的な地域課題の解決、地域おこし協力隊終了後の活動プラン、100年後でも続いているクラブとして安定経営、の3点を挙げていました。まだまだ手探りではあるが、選手はサッカーに一生懸命取り組んでいる。戦う女性は多くの人を笑顔にしている。これからも地域と共に進んでいきたいとのことでした。

※ヴィアマテラス宮崎公式Xアカウントで事例発表の様子をポストしています。ぜひご覧ください。
posted by ともぴー at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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